母の凌辱場面
二十年前のあのころは、まだアダルトビデオがいい商売になっていた。
 むしろ、全盛期といってよい。
 ヤクザ者三人組は、周到な準備をしていたらしい。
 おれや母のことを念入りに調べ上げてから、夜遅く、おれの家へやってきたのである。
 「あと……あと一カ月待ってくれ」
 返せる当てもなく哀願すると、
 「いい加減にしやがれ」
 おれは、居間をはさんで母の部屋と反対側の自室で、まるでイモ虫みたいに全身を縛りあげられていた。
 「今日で終わる。終わらせてやるよ。いや、おれたちも、いつまでもテメエみてえなもんに振り回されたくねえからな。だから、商売して帰るから、観念しやがれ」
 リーダー格の府瀬がいい、続けて、
 「その代り、今夜でケジメをつけねえと、テメエも小指をなくすくらいじゃ済まなねえから、覚悟しろよ」
 そのとき、おれは初めて府瀬の左手の小指がないことに気づいたのである。
 マージャンしているとき、そのことに気がつかぬとは、おれも文字通り慢心していたということだ。
 もし気づいていれば、もっと警戒心を持ったはずである。
 府瀬以外の二人は、おれの母の部屋の押入れにカメラ器材を持って忍びこんだ。
 押入れの襖戸に、近づいてよく見ないと気がつかない程度の小さな穴をあけた。
 当時は、その程度に技術も進化、発展をとげていて、そのくり抜いた小っちゃな覗き穴から盗撮が可能だったらしい。
 母には誠に申し訳ないが、今晩を境に、おれは借金地獄から解放されると、そのことだけしか頭になかった。
 「ただいま、賢次」
 帰ってきた母は、いつものように用心深く玄関の内カギをロックした。
 府瀬たちは、靴箱に自分たちの履物を隠していたのである。
 母は当然、いつものようにおれだけが家の中にいると思っていた。
 テレビをつけっぱなしにした居間に入る前に、玄関横のトイレに接する洗面所で手と顔を洗い、ウガイをし、トイレに入って出てきた。
 「あ……え……」
 と母が、言葉にならない声を発しているのが襖戸越しに伝わってきた。
 叫ぼうにも、おれはタオルでさるぐつわをかまされていたのである。
 両手、両足も背中のところでくくりつけられ、自由を奪われていたのだった。
 「あ、あなたは……い、い……やあっ」
 母が自分の部屋に、府瀬によって押し込まれたのが分かった。
 「ぐ……ぐ……ぐふ、う……むぐ……」
 助けようにも、手足をもがれたのに等しい。なすすべもなかった。
 「い、やああ……やっ、やっ……あううーん、ゆるして、えッ」
 母が切迫した声をこぼす。しかし、
 「……だからな、一回で終わりにしてやっからよ……あきらめな……ああ、ああ、大したまんちょこじゃあねえか……くう、いいぜ、締まるぜ」
 ロコツなセリフにかぶせるようにして、なまなましい震動が伝わってきた。
 いま初めてオタクに正直いうんだが、そのとき、いや、あのときというべきだな、母がそんなヒドイ目にあっているにもかかわらず、おれは異様に興奮してしまったんだよ。
 「ううーん、すげえぞ。いいぜいいぜ、なかなか結構なまんちょこだ……クウ」
 「い、や……いやっ、いやっ、ああっ」
 あるいは、もしかして、府瀬は、そのとき虫ケラのように縛られたおれが、ヤツと母との交合シーンを耳にしていることに、きわめて刺激的な気分を味わっていたのではなかったか。
 人間の快楽の最上位の一つは、圧倒的な支配だという。
 肉体的心理的、精神的に圧倒的な優位に立って人間をドレイのように扱うことは、セックスの快楽を上回る強烈な快感だと聞いたことがある。
 母と、そしておれを暴力的に支配することで、府瀬は倒錯じみた興奮と快楽をあのとき味わっていたのかもしれないと……それは、いま感じることだけどね。
 そして、もう一つの問題は、おれは母がこの上ない屈辱を浴びているそのときに、他では味わったこともない強烈な興奮に流されてしまったことである。
 「ほれっ、ほれっ、ほれほれっ」
 「あはは、ああっ、ああっ、あわわっ」
 床の震動が一段と激しくなる。
 そのたびに、切迫した二人の息づかいがこぼれてくる。
 母は、いまどんなポーズで肉体を遊ばれているのだろうか。
 表情は、仕草は……。
 おれはね、府瀬が限界を訴える言葉、
 「それっ、それっ、中に出すぞ……ああ、ああああ……ああっ、ああっ」
 と口走ったとき、誠に罪深いことであるが、パンツの中で射精していたのである……。
 さわりも、いじりも、しごきもせずに射液したのは、後にも先にもあのときが本当に初めてである。
 そういう自分に、おれはいまに到るも自己嫌悪を消し去ることができない。しかし、事実は事実というほかはなかった……。
母さん、すまない
「恨むなら、道楽息子を恨むこった」
 しばらくしてから、府瀬が服をまとう気配があり、おれに聞こえよがしに、そう母に捨てゼリフを吐く声がした。
 「泣いたって駄目だ。あんたは、いわば極道息子がこしらえた借金のカタにされたようなもんだからな」
 「息子は、息子は……」
 すすり上げるような声で、母がようやく声を出した。
 もう一人、押入れに隠れて盗み撮りしていた子分はどうしたのか……?
 と思ったとき、押入れの戸が勢いよく開かれる音がして、
 「きゃっ」
 と、母の悲鳴が続いた。
 「こいつも、あんたのバカ息子の謝金を、ノゾキで帳消しにしてくれるってよお、ひひ」
 「そ、そんな」
 母が絶句する、
 盗撮カメラや器材は、すばやくバッグに隠したのに違いない。
 当時、ラブホテルの消し忘れビデオとか、女湯ののぞきものなど、盗撮ものに人気があった。
 しかも、ファンやマニアは目が肥えているので、本物かやらせか、見ればわかる。
 やはり本物は人気があって資金稼ぎとしてそういうところをビジネスにもしていたという。
 顔がそのまま丸出しになるとヤバいので基本的には顔をスミ消しにするとか、性器も〝編集〟によってボカしたり、消したりするわけだ。
 しかし、それとは別に、地下ルートで「裏ビデオ」として、つまり裏モノとして高く売りさばかれるものもある。
 それは、オモテにでると警察ザタになる犯罪だから、仮に裏モノとして地下ルートで流れても、マニアのあいだで密かに楽しまれるにすぎない……とおれは思った。
 「恨むなら、自分の極道息子を恨むんだな」
 「息子は……息子は……いま、どこに!?」
 「はっは、自分の部屋にいるよ」
 「えっ」
 という母の声がし、ややあって、こっちへ母が飛んでくる気配が起こった。
 ガラッと勢いよく襖戸が開かれる。
 「賢次ッ!」
 「むぐぐふッ」
 さるぐつわをかまされ、両手両足を後ろ手に縛られている“イモ虫”状態のおれを見た母の目から、みるみる大粒の涙がポロポロとこぼれた。
 その涙は、肉体をオモチャにされた自分への嫌悪と屈辱、ケダモノたちへの憎悪、そしてそれ以上に、おれが無事であったことへの複雑なおもいだっただろう。
 だから、おれは母への心苦しさと申訳なさでいっぱいになった。
 しかも、あんな状況下で、おれは異様に興奮してしまい、果てはパンツの中を汚してしまっていたのであるから……。
 「おう、賢次、おっ母は上玉だったぜ。ちょっとトウはたっているが、どーしてどーして、大したべべちょこだったよ」
 まっ白いパンティ一枚のほとんど全裸にちかい姿で、母は両腕を乳房の前で交差させて背後の男たちをキッとにらんだ。
 「ふふふ……ぐぶぐぶぶッ」
 犬チクショー野郎とおれは叫んだが、言葉にならなかった。
 「これで借金は帳消しにしてやっからよ。せいぜい、べべちょこママに感謝するんだな」
 屈辱的な捨てゼリフを残し、二人は玄関へ向かう。
 もう一人の子分が振り返り、クツ箱から出したクツを穿きながら、
 「ま、しばらくマージャンは我慢するんだな。ひーっひっひ」
 下卑た笑いを残して二人が玄関ドアから出てゆくと、母はパンティ一枚のまま玄関に走り、内カギをロックした。
 それからおれのほうへ向き直り、自分が先に服を着るより前に、再びおれのところへ駆け戻ってきた。
 「ケダモノだね、あいつら。ケダモノだよ。人間のすることじゃないよ」
 おれの横にしゃがんで、乳房をむき出しにしてぷるぷる揺すりながら、おれの背中で結わえているひもをほどいてくれた。
 後ろ向きにされたとき、母の目から滝のようにボロボロとこぼれ落ちる水滴がおれの背中や腕にしたたり落ちた。
 両腕が自由になると、おれは自分でさるぐつわをはずし、
 「母さん、すまない、許してくれえッ」
 と母の前で土下座をしたのである。
 土下座しながら、正直にいま白状するけれど、とろりと白く弾力のありそうな母の両の乳房を目にして、おれはあのとき……倒錯したような興奮に包まれてしまっていたんだ。
 しかも、おれの部屋の押入れには、まだもう一人、盗撮カメラを持って盗み撮りをする子分がいる。
 そのことがバレたら、今度は本当に母に軽べつされるに違いない。
 もともとは、汚された母親のからだを風呂場で洗って清めてやり、そのあと今度は息子のおれの部屋で母親とおれが……というストリーが予定されていた。
 が、土下座しているおれに、
 「もう、いいよ。もう、いいから……母さんは、母さんは、恐かったのよお」
 と、パンティ一枚のまま泣いてしがみついてきたのである。
 母にはそんな気はなかっただろう。
 ただ、恐怖と屈辱と嫌悪感を捨て去りたくて、おれに慰めてほしかっただけに違いなかった。
 しかし、おれはあのとき、あんな場面で、頭が割れそうなくらい異常にエキサイトしてしまった。
 倒錯した欲情に押し流され、その勢いのまま母を抱いてしまったのである……。
ああ、母さん感じるよぉ
なにより心配したことは、母が陰部に裂傷を負っていないかということだった。
 おれは、畳の上にやさしく押し倒した母からやさしくパンティを奪った。
 両脚から脱がしきってそっと白い股を広げ、上目づかいに母を見ると、母は両手で顔を被っていた。
 それは、ヤクザ者に身を汚されたという屈辱とかなしみゆえにこぼす涙を拭っていたためか。
 いや、当然そのおもいもよぎったに違いないが、居間からこぼれる明るい照明の下で、羞ずかしい部分をさらけ出された羞恥もあったろう。
 そして、それらの交錯した複雑な感情に加えて、実の息子のあってはならない関係に流されようとしていたことに対する、おれが味わっているのに似た異様な昂揚感もまじっていたのではなかったか……。
 母の陰部が傷ついていないのに安心すると同時、妊娠のことも心配した。
 これらのことについては母、おれと激しくまぐわっているとき、
 「用意のよいことに、あの男はクリームみたいなものを準備していて、それを自分のグロテスクな勃起に塗って……フィニッシュのとき、ちゃんとコンドームまで着けたわ」
 「じゃ、母さんの……中に、ジカには射精しなかったんだね!」
 思わずおれが声を荒げると、
 「ええ。終えると、それを誰かに見せつけるみたいに、精液がいっぱい入ったコンドームを空にかざしてみせたわ。私はすぐ顔をそむけたけれど……。答えてから、すぐに続けて「でもね、万一、中に注がれても大丈夫だったけれどもね」
 「えっ!」
 「ふふ、母さんね、一昨年……(生理が)終えているの。だから……だから、ああ、賢次も、私の中で終わってもよいよ。ううん、ああ、ああ、母さん、そうしてもらいたいわ」
 それでおれは、他の女たちとはこれほどに充実したことはないし、だから、自分でもビックリするくらいに大量のものをドクドクと母の、ケイレンじみて収縮する濡れた粘膜の中へ放射していたのである。
 その前に、おれは母の女のその部分を、アゴがはずれそうになるくらい、ペット犬にも似て、情熱的に舐め回した。
 「うーん、ううっううーん、賢次、ああ、母さん、感じるよお」
 母が白い裸身をふるわせ、演技などではなくくびれたウエストをくねらせた。
 あのとき母は、おれがケダモノによって汚された女の大切な部分をベロで、くちびるで、熱心に舐めて清めてくれているんだと思ったに違いない。
 もちろん、その気持ちもおれの中に動いていたが、それ以上に、おれは異常というほかない興奮と劣情にひたすら突き動かされてしたことなのである。
 母のクリトリスは、少女じみて可愛らしく、可憐だった。
 美しいとも思った。
 ちょっと不ぞろいではあったが、二枚の花びらも薄紅色で清純な印象だった。
 情をこめてたんねんにクリトリスをしゃぶると、母は激しくかぶりを振り、
 「いくう、いくう、またよ、また……いくう、ああ、いくいくう」
 と上体をしならせて続けざまに気をやるのだった。
 快感に身をまかせることが、母にとっては傷心を最も癒せる方法でもあったのではないかって気がする……。
 驚いたのは、おれが母の中におびただしいまでの量のものを射液したあとのことだ。
 いま思い出しても、自分でもたまげるくらいの、それは十代のときに匹敵するくらいのものを射液し終えて、なお母の軽いケイレンじみて収縮する濡れた粘膜に包まれ、勃起したままでいたときだ。
 「すごいわ、ああ、大きいまま、硬いままなのね」
 うわごとのようにいい、おれが引っこぬこうとするのを制止して、今度は自分が上になったのである。
 そして、両目を閉じ、何も考えたくないといった無心の、いやとろめいた表情でおれの胸に両手を置いた。
 自分の上体を支え、すぐに狂おしいまで白い腰をどんらんに揺すりたて、グラインドさせ、あるいは恥骨が痛くなるくらい激しく上下動した。
 「ああ、ああ」
 と、途中から言葉を失い、ひたすら達しつづけた。
 三十男のおれが、あろうことか母の中で抜かずの二連発をこなしたんだよ……。
 汗だくのおれがグッタリしているフリをすると、母はトイレとシャワーに消えた。
 そのスキにおれは、押入れに潜んで盗撮ビデオの隠し撮りしていた男を外に逃がし、玄関ドアの内カギをしっかりロックした。
 男の顔は興奮でマッ赤だった。ズボンの前もパンパンでちょっと歩きにくそうだった。
 あのビデオは、オモテと地下の両方に流れただろう……。
 でも、おれと母は意を決して、その翌日には遠い見知らぬ土地へ引っ越したんだ。
 母とは一年近く一緒に暮らしたよ。
 ああ、おれも昼間は真面目に肉体労働し、母もパートの仕事を見つけて働き……そして夜は、そう、まるで新婚夫婦みたいに毎晩毎晩、セックス三昧だった……。









