スワッププレイ
二日目の夜——。
食堂での四人での楽しい夕食のあと、同じホテル内でしたが、四人でカラオケスナックに行き大いに興じました。
四人とも、そんなにアルコールは強くなかったのですが、意気投合したのでしょう……そして、もっと刺激を求めていたのだと思います。
〝三次会〟と称して、りん子さんたちの部屋に焼酎のボトルを届けてもらいました。
みんな機嫌がよく、しかし、演技かホントに酔ったのか、りん子さんが、
「ねえ、あなた、シたくなっちゃった」
「……」
ご主人の猛男さんが、困ったのか聴こえないフリをすると、なおもりん子さん、
「知子の前で、ちゃんと私があなたの妻だということを証明して!」
「おいおい。冗談にもホドがあるぞ」
こんなとき、私はほとんど見て見ぬフリ、聴かなかったフリして、
「さて、失礼しましょう」
と、その場をあとにしました。
私が中堅どころのいまの会社でエリートコースに乗れたのは、この無責任体質と、一種の客観主義ともいうべきものでした。
が、このときは、めずらしく席を立つ気がせず、妻の反応にも興味を抱きました。
妻も、席を立とうとしなかったのです。
「それとも、知子に気がねしてるの?」
「いい加減にしないと、オレ、怒るよ」
「いいよ、怒って。でも、知子、いまでも、うちのダンナが好き?」
「ええ、好きよ」
ケロリと妻の知子がいったので、私はドキリとしました。
すると、妻はニヤリと私を見てから、
「でも、いまはうちのダンナが一番好き」
「ほれな」
猛男さんが、半分ガッカリ、半分ナットクしたような表情で答えると、
「どーだか。じゃ、そのことを証明して」
そのときのりん子さんの顔つきが、冗談ではなくホンキでした。
「おうよ。いま、ここでか?」
挑発された猛男さんは、いまが勝負どころとでもいう感じで、ひるみません。
「もちろんよ。いましか、ないわ」
あとになって考えれば、りん子さんは最初は冗談めいた気持ちが、途中からホンキになってしまったのかもしれません。
とにかく、たまげたことに、二人は私と妻の前で……お互い全裸になりました。
妻の知子も、さ、自分たちの部屋に戻ろうとはいいません。
そして私も、二人のおもいと、他人のセックスするところを、自分の目で見てみたいと思ってしまったのです。
りん子さんと、夫の猛男さんは、暖房がよく効いた部屋で二人とも全裸になりました。
夕食中に用意しておいてくれた、二つ並んだ布団の一方で、私と妻の目を意識しながら抱擁し、キスしていたのです。
猛男さんのあのものは、サイズ的には私のそれとあまり変わりありませんでした。そのことが私を安心させたのは確かですが、へそに付かんばかりの充実ぶり。
うらやましいと思った、その直後に、私の分身もはちきれんばかりにみなぎってきてしまったのです。
どうであれ、りん子さんと猛男さんは、私たちの目の前で、狂おしいまでの性交にまみれました。
二人は、ときどきチラチラと、妻の知子と私の顔——表情を確認し、興奮して二人の痴態にクギ付けになっているのを確認すると、また行為に没頭するのです。
相互陰部接吻。
「ああっ、いい、感じるうーッ」
私と妻はそのとき、なすスベもなく窓ぎわのミニテーブルをはさんで椅子に座りながら二人の痴態に見とれていました。
見とれながら、妻は下半身をグッショリさせ、私は愚息を痛いまで突っぱらかせていたのです。
そして、そして……。
気がついたときには、私と妻は、りん子さんと猛男さんのすぐ隣りで、それはまるで新婚時代のときみたいに、情熱的な愛戯をむさぼっていたのです。
「見ているのね、見られているのね」
妻とりん子さんは、夫(私と猛男さん)に抱かれながら同じセリフを吐いてキリキリと急上昇していました。
それがスワッピングの第一歩だったのです。
スワッピングの世界を、幸か不幸か、私は詳しく知りません。非常にイージーというか、単に性欲まかせのスワッパーも少なくないと思います。
しかし、私は、少なくとも相手が誰でもいいとはいきません。それは妻の知子も、りん子さんも、そしてりん子さんの夫の猛男さんも同じだったと思います。
そのことが、かえって四者の濃密な関係を構築したのではないでしょうか……。
ともかく、最初はお互いの夫婦同士の見せっこセックス。つまり、互いの夫婦のセックスを見せっこするだけ。
〝だけ〟とはいっても、これは他にまさる強烈なシゲキ=スパイスでした。しかも、すぐ目の前で相手夫婦のセックスを見せつけられるのです。
息づかい、体臭、匂い……五感を揺さぶってくる、きわめてダイナミックな刺激というより他にありません。
あの夜、脳が焼けるくらいの熱い興奮を味わい、妻も、かつて見たことがないほど私の腕の中で乱れたのでした……。
そして、初めての、本当のパートナー交換の日を迎えたのでした。
私自身がそうであったように、りん子さんの夫である猛男さんも、目の前で愛する自分の妻が他の男に抱かれることを見るのは忍びなかったのでしょう。ならば、妻同士が相手の家に相互訪問……しかも泊まりがけという大胆きわまりない形をとることになったのです。
あの強烈な一夜を過ごして帰宅した夜、
「あなた、りん子を抱いてみたい?」
妻が、実にストレートなセリフを私に向かって吐きました。
「おいおい、なんてことをいうんだ」
心の中を見透かされた気がして、私は背中を向けたまま答えたのです。
すると、妻は、わざわざ私の前に回りこんで、私の目をまっすぐ見つめ、
「答えて。興味ない?」
「興味? なくは、ないけど……」
「ダメ、そんないいかた」
「……」
「りん子に、興味ある?」
「お、おいおい」
「答えて!」
「興味は……あ、あるよ。明るくて、なんか陽気でさ……はは、ははは」
「バカ!」
「バ、バカはないだろう」
「だから、抱いてみたいか、ちゃんといって。最後の質問よ」
「そりゃあ……でも、おまえに悪いもの」
「いいの! でも、条件がある」
「なんのことさ」
「あなたは、りん子さんを抱く。でも、私も猛男さんに抱かれる」
「そ、そんな、おまえ……」
「決断して!」
決断したのです。
決断したお陰で、私はりん子さんを抱くことができました。
少しだけ、どうしてもいいたくなるのは、ダンナの猛男さんとのときより、私と交接したとき、ケモノじみて乱れたこと。
「す、すごいすごい。こんなの初めて。あ、うわあ……気が遠くなりそうッ」
ウソではなく、痛いくらいの締めつけで、ペニスがチョン切られそうという感覚を初めて私は味わいました。
「あうーん、うっむう……おいしい。ペニスがこんなにおいしいものだったなんて、初めて知った気がする、むう……むうむう」
浴室で、私はりん子さんのフェラチオに酔いしれながら、しかし妻の秘態がまぶたの裏に浮かんでいたのです。
ペニスの大きさはともかく、あのプロレスラーみたいな巨体を相手に、妻はどんな狂態を見せたのでしょうか。
ふっと、私よりも、初恋の彼のほうに心も身体も魅かれてしまったのではないか……と、心配も芽ばえました。であるなら、それはそれで仕方がない気もしました。
そう感じつつ、一方でこのりん子さんとの情事も私にとってかけがえのない気がしていたのです。
「ダメ、いれて!」
口をはずしたりん子さんが、泣き腫らしたような目をして二度目の合体をせがみました。
浴室の中で、彼女を獣ポーズにし、うしろからちょっとせっかちに挿入してゆく……。
挿入しながら、妻が帰宅したら、猛男さんとりん子さんを〝ツマミ〟に、夜通し愛し合う決意を心に固めていました。