借金のカタに凌辱された母親を前におれは…
ヤクザ者は大借金のカタに美しい母の熟れた肉体を汚した。襖戸越しにその狂態を聴かされ、しかし俺は倒錯じみた異常な興奮に流されて母と…。
(告白者)
告白者●辛島賢次(仮名・51歳・ホームレス)
封印した記憶
ふうう。いやあ、サッパリしたねえ。
正月というと、ゆったりまともに風呂に入るのは、九……十……十一月……三カ月ぶりさ。
一応、コインランドリーで一カ月ぶりに服を洗い、身体も拭いてきたけど……。
三年もホームレスやってると、なかなか身体に染みついた垢とニオイは簡単には取れないからね。
この(ビジネス)ホテルのカウンターの受付で断わられるかと半分は覚悟していたんだよ。
でも、あんた(記者)もいたし、カネもちゃんと払ったわけだしな……払ったのはオタクだけど(笑)。
まあ、おれのようなホームレスも泊めてくれるところを見ると、こういう商売も不景気なんだってことだな。
そりゃ、そうだ。
会社も景気が悪けりゃ、コスト削減は当然の話。出張費も渋るよね。
個人も会社も、金回りが悪ければ、交際費も経費もカットする、ま、当然だろうな。
……夏は、公園の噴水とかトイレの水なんかで身体を拭けば安上がりだが、冬場は逆に風呂に入らないで、垢をためるほうがあったかい(笑)。
まあまあ、酒もタバコも、ホカ弁も買ってもらって、ホテルにも一泊させてもらえば、ギャラはこれで充分だよ。
文章が書ければいいけど、苦手だから、代わりにおれの……初めて話す体験だよ。そ、誰にも話したことはないね。その代わり、名前は仮名で……いや、決めてきた。辛島賢次ってことにした。
年齢? いや、うん。同じ五十一歳でいいよ。
……母親のことさ。母親とおれとの、おぞましい体験。
オタクの本をダチ(ホームレス仲間)から借りて読んで、それで電話したわけさ。
お袋は、おれが夜逃げ同然で、倒産した会社からドロンする少し前に交通事故で再婚相手と一緒に天に召されたよ。
おれと母とのことは、もちろん母と一緒に死んだ再婚相手も知らない。
あのおぞましい過去は、おれと母と、その秘密の関係を盗み撮りした連中しか知らない……。
元のマスターテープがあるから、裏の世界で、地下に流されたかもしれないが、お袋も死んだし、おれもこんなザマだから、もうバレても恐いことなんてないよ。
いつ死んでもいいっていう気持ちの一方で、死ぬ前に、おれやおれたち、おれたちのホームレス仲間をこんな目にあわせてくれた連中の誰か一人くらいは、天に代わって〝天誅〟を加えてやる……なんて大仰なことは思わないけど。
あの秋葉原の無差別殺傷事件みたいな、あんなヤケッパチで軟弱な事件は起こしたくはないね。
刑務所行きを覚悟すれば、いや、死刑まで覚悟していたら、もう恐いものなんてこの世にありゃしない。
だから、おれは、誰がね、どう見ても悪党と思われるヤツを、死ぬ前に一人でいいからブッ殺してやろうと決めている。
それがおれの、何かせめて一つ世の中のために役立って死にたいというね、それが希望でもあるね。
だって、悪党どもが旨いものをたらふく食って、暖房に囲まれた部屋で平和な眠りをむさぼる。
その一方で、真面目に働いてささやかに生きてきた者が、なんかの事情で人生を転落して、生活保護も受けられず、しまいにはニギリ飯一つ食いたいといって食えず死んでゆく……。
その不条理にキバをむく連中が百人、いや命を張って、捨てて巨悪や悪党に立ち向かう者が十人でもいれば、世の中ずいぶん変わるんじゃないか。
……なんてことを考えて生きているんだよ、これでも(笑)。
それで、なんの話だっけ……。
ああ、そうそう、お袋のことだったね。
思い出すと、いまでも苦しい。
いや、思いだすまいとして、思い出さずにはいられない思い出だ。
誰にでも一つや二つ、苦しい過去があるんじゃないかな。なければノー天気、いや幸せというべきだったかね(笑)。
人間は確かに、辛く苦しい思い出だけでは生きちゃいけない。こんなおれにも、やっぱり楽しい思い出もあるから生きてこれたんだと思う。
会社の倒産が決定的になる前に別れた女房には心苦しいが、子供を作らなかったことが、ヤクザなおれのせめてもの慰めだね。
妻はおれより一回り年下で、再婚とともにまだ(妊娠の)チャンスはある。
いい相手を見つけて、再婚して、幸せになってほしいと、これは本気でいまでも思っている……。
おれは、(人生の)最期は、刑務所の中だろうと本気で思っているんだ。
屋根はあるし(笑)、布団もあるし(笑)、フロだって週に二回だか三回は入れるそうじゃないの(笑)。
しかも、だ。三食付きだ(笑)。
労役という肉体労働はあるが、これだって運動だと思えば健康にもいい。ダチ公の中にも元囚人がいるが、食い物に関しては、なにしろ病人食みたいに薄味でヌルい。甘くも辛くも、熱くもないから、非常に物足らないらしい。
しかし、一日一食、いや三食も食えるだけで有難いと思えるおれたちには、こんなゴージャスな世界はない。
なにしろ、おれたちは、飢えにも寒さにも……鍛えかたのレベルが違う(笑)。
でも、くり返すと、通り魔殺人みたいな、そういう誰でもいい式の情けないことはしたくない。
やるなら巨悪。本当の悪党。心ある誰もが、
「あいつだけは許せねえ」
と思えるヤツをギャフンといわせてやってから、いさぎよく死刑でもなんでも刑に服したいとおれは心の中で思っている。
そういうことを考えているヤツは、けっしておれだけじゃないんだよ……。
ヤクザ者に引っかかり
ちょうど二十年前さ。
だから、亡母は、いまのおれと同じ五十一歳。
まだ女ざかりといえたのじゃないかな。
当時おれは、いまでいうフリーターみたいなもので、定職を持たなかった。
クソのような上司の下で、ひどい安月給で働かされていた。
仕事になんの誇りも喜びも見出せず、週末は競馬、パチンコ、マージャンというギャンブル三昧。
週末のギャンブルで、月給の二〜三倍稼ぐようになり、バカバカしくなって会社を辞めてしまったわけです。
ふふ、辞表を叩きつけるとクソ上司が切れてね、〝手〟が出たわけ。
いや、白状すると、〝手〟を上げるようにおれは仕向けたんだね。
「いままで、テメエのような大バカヤローの下で働いてきた自分をホメてやりたいよ。よく我慢したってな。テメエこそ、おれに感謝しろよ」
すると、出たね、〝手〟が。
おれは
「シメた!」
と思った。
なにしろ、みんなが見ている前での暴力。証人は大勢いる。
人間、ハラをくくると強いぜ。
で、まあ、病院に行って診断書を書いてもらい、警察にも被害届けを提出。「名門」大出身のヤローは、大枚を持っておれの前で〝土下座〟し、示談を哀願した。
いやいや、気分がよかったね。
大枚取って、〝詫び状〟を書かせ、これで最後だと一発、思いっきりブン殴ってやりました。
スカッとしたね。
が、スカッとしたまではいいが、そのあと調子づいてヤクザ者のカモにされたんだ。フラリと入った雀荘で、三人組のエサにされた。
最初は、たまげるほど勝たせてくれたよ。でも、それは最初だけで、すぐに電話がかかってきて……結局、結論をいえば、五百万近くの借金です。ダマされたと思ったときには、アウト。手遅れだった。
慢心したんだね。
とてもおれの手に負える金額ではなかった。
三人組の事務所に引きずりこまれ、
「どうだ、マグロ船に一年間働くってのは。それに、人間てのは、目ン玉から内臓から、ひっひ、捨てるところはねえぞ……」
と脅され、ゾーッとした。
おれが一番恐ろしいのは水。いや海だ。海で溺れた経験があるからね。情けないけど金づちだ。
……結局、おれの遊びと過ちでこしらえた大借金を、母に、母の肉体で肩代わりしてもらった……。
いまでも、よみがえる。
母のあのときの、舌を噛み切って死にたくなっただろう屈辱的なおもい、場面が……。
当時、母は五十一歳。
小料理屋の皿洗いをしていて、夕方の五時頃から十時まで働いていた。
若い頃、一時女優をしていたくらいの美人だったが、性格的には地味で真面目。
だから、外見の華やかさを自分で嫌っていたのだけれど、母が目的で店にくる者がかなりいた。
ママは、母にホールでも接客を頼みたかったが、それなら辞めると母はいい、皿洗いを続けているような女だった。父とは、母が妊娠、そして出産して間もなく浮気していることが発覚し、母のほうから三行半を突きつけたのである。
その程度、気丈な女だった。
そういう母の苦労を知っていながら、母が再婚すれば、おれはいつでも家を出てゆく心づもりだったが、なぜか母にその気はない。
「母さん、どうして再婚しないのさ」
「結婚はコリゴリ。おまえで打ち止めよ」
冗談めかしていう母に言い寄る男たちは大勢いたはずである。
そのへんにいる若い女よりもずっと母のほうが美しいとおれは本気で思っていた。
冷静になって、客観的に見ても、母は三十代半ば〜四十歳くらいに見える。セックスフレンドがいたのか、どうか。女ざかりでセックスはどうしていたのか……。
というよりも、おれは自分のことが中心で、母のことは二の次だった。
母も、毎日これが暗く陰うつな顔をして会社に出かける生活から打って変わって、毎日が楽しそうにしているのを見て、余計なことはいうまいと思ったらしい。
お互いに、干渉しない関係だった。
だからといって、母を美しい女だと思う気持ちに疑いはない。
ないが、なかったが、しかし母を一人の「おんな」として見るいやらしい感情は、おれの中にはなかった。
なかった、ハズだった……。
家は、平屋の一軒家の借家。クルマはなく、母は原付バイクで、おれは駅と自宅周辺を自転車で昼間からウロウロしている生活。
五百万(正確には残り三五〇万くらい)もの借金にあたいする財産など、おれの家にはなかった。
そこでヤクザ者たちは、母の美貌と肉体に目をつけたわけである。