結婚して三年。二つ年下の麻夕美とはまだ子供はいない。
子供を作ることが母への裏切りとは思っていなかったが、なぜと知らずおれは母が悲しむのではないかと思っていた。
それでいつもオレは避妊を欠かさなかったのだが、オレよりも妻の麻夕美のほうが、
「正孝がいやでなければ、私は29くらいまでは子供はいいや。それじゃいや?」
「いや、おれが生むわけじゃないし、麻夕美がそれでよければおれはいいよ」
その妻とのセックスについて母は意識的にというか、聞かない。ただ一度、
「結婚生活はうまくいっているの?」
と問われ、正直におれは、
「性格が明るくて真っすぐで、健康なのが一番の取り柄かな。まあ、母さんにはとても及ばないけど料理もそこそこだし、向こうの両親や友だち付き合いもいい」
「それはよかった……」
それ以来、母は妻のことについてとやかく聞かない。子供つまり、母にとっての孫のことについても妻の考え方を伝えてあるので、
「じゃあ、母さんはまだあと何年間かはオバアちゃんにならなくていいんだね」
と冗談めかして答えただけだった。
子供(孫)ができるということは、妻との性交をリアルに感じさせることでもあり、普通に考えれば、結婚している妻とおれが日常にセックスしているのは当たり前の話なのだが、それを話題にすることは母を傷つける気がして、母に問われない限り、自分からおれは話題にすることはしなかった。
妻の麻夕美は、おれと母との10年にも及ぶ秘密の中について疑うどころか母に同情すらしているのだった。
……あれは、おれが地元では一流校として知られる国立大学に合格し学園生活にもそろそろ馴れてきたときだった。
父は小さな会社の社長をしていたが、不景気で経営が思うように立ち行かずに従業員の給料の遅配もしばしば、休日に組合幹部が拙宅に来て父とやりあっているところもおれはしばしば目撃した。
いっそ会社を解散するなり倒産させてゼロからスタートすればよいのに、見栄とプライドが強く世間ていを非常に気にする父は決断力を発揮できず、ズルズル状況を悪化させるばかりだった。
そういうことが分かっていたからおれは入学金と授業料が安い国立大学にこだわったのであり、みずからのうっぷんを酒や母への暴力で晴らす父といつか決着をつけねばと心に決めていた。
——その日、家庭教師のアルバイトを終えて帰宅すると、母が洗面所ですすり泣きながら顔を洗っていた。
「母さん……」
声をかけようとしたオレに気づいた母が顔を上げ、洗面所の鏡に顔を映した。唇が切れて血がしたたり、したたっている側の顔半分がアザだらけだった。
「もう許せん、あいつ……」
ショルダーバッグを放り出し、居間に駆け込んで父を口汚く面罵した。
アルコールの酔いと興奮で顔をマッ赤にした父は激怒し、おれに大きな灰皿を投げつけるや殴りかかってきた。灰皿はかろうじてよけたが、父の加減を忘れたパンチはまともにおれの顔面を捉えた。床にくずれたおれに父の容赦のない蹴りが続けざまに飛んできたとき、
「やめて、もう終わりにしてッ」
見ると母が包丁を握り締めていたのだ。
もっとしゃぶらせてよ
あのときの母の殺意と怒りに満ちた鬼の形相は引き返しできないことを覚悟した本物のそれだった。
それが妻のつとめだと、つつましく父の一歩うしろを常に歩いて生きてきた母が父への愛情をすっかり失っていることは高校に上がったころから知っていた。
だからこそ早く国立大に入り、いずれ経済的に独立したいと望んだが志望校に落ち、一浪を余儀なくされた。
金のかかる予備校へは行かず、友人や知人など必要なこと以外はいっさい外出もせずに外界との関係を完全に断ち、受験勉強以外のあらゆる欲望を意識してシャットアウトとした……「あのこと」のみ除いて。
父とは、受験に失敗してからいっさい口をきかず、食事も風呂の時間もずらして顔を合わせなかった。
もうすっかり実質的に他人だった。
肉親の情のカケラもなく、父と父の会社がどうなろうと知ったことではない。
ただ、ときどき階下で父が母につらく当たっているのが分かったときは苦しかったが、母を救い出すためにも受験勉強に集中しなければならなかった。
やがて父もおれのことはあきらめるようになった。同じ屋根の下、ただ血こそつながってはいるが完全に無視し合う他人が奇妙に同居していたことになる。
ときどき先に大学生となった同級生らから電話や手紙が来たが全て無視した。
みんな学園生活や青春を謳歌しエンジョイしているのかと思うとシャクにさわりはしたが、ひとはひと、おれはおれという考えに徹したのと、おれには確かな目標があり彼らに嫉妬心は不思議にもまったく湧かなかった。
あの母の包丁事件のあと、父は段々と外泊が多くなった。夫婦の関係は完全にヒビ割れて修復不可能となり、その年の暮れに父と母は、正式な離婚こそ翌年に持ち越されはしたが、母とおれが家を出る形で別居生活を始めることで、実質的な夫婦関係にピリオドを打った。
それは長くおれが待ち望んだ母と二人きりの生活が始まったということなのだが、それよりずっと以前におれと母は、身も心もすでに強く結ばれていたのである……。
「ああ、巨きいねえ、正孝のは」
テーブルの下にうずくまり、おれの股にはさまれるような格好で母はズボンのファスナーを引き降ろすと、トランクスを突き破らんばかりに猛々しくいきりたったおれの分身の全容をトランクスの中割れ部分から外にさらけ出し、心にしみるようにしみじみいった。
カサの王冠部の秘口が先走り液で淫らなばかりにぬらぬらに濡れ、ほわほわと湯気さえたち昇らせている気配をおれは意識した。
「ああっ、母さん、いいッ」
最初の、そう、あの初めてのときみたいにおれの口からやるせない声が小さく、でも鋭くこぼれた。
違うのは、母のあの初めてのときにみせた緊張の度合いやぎこちなさだった。
いまは、いとおしくてならない自分の息子のムスコに母は陶然として、今度はジカに頬ずりしてみせる。少なくとも妻のいない息子のおれと二人きりのとき、母は年齢のことなど忘れて若々しく輝き「恋人」同士にふさわしい情熱的な火の女に変身する、いや元の姿に還るというほうが正確である。
「ああ……むう……あむ、う……本当に私は、うむむっむう、うう……あああ、正孝のこれにゾッコンなのね、むうむ」
片手の長い五指を分身の根元に巻きつけ軽くしごきたてながら母は、窮屈でかわいそうだという感じでおれの一対のふくろをもう一方の手で優しく下着の外へ取り出し、まるで唾液を塗りたくるがごとくに両のふくろに熱い舌をむらむらとそよがせる。
「ああ、母さん、いいよ、感じるよ」
「私もよ、私も、うっむうっむ、正孝の大好きなおちんぽに……ああ、もう我慢できなくなるくらい、ううん、もう我慢できない……むむっぐ、ぐむ、ぐっむ」
二個のふくろからサオの根元に舌を移すと、その熱く濡れた舌を砲身のあちこちにぞろぞろとヘビのように這い回らせ、一度は肉砲をお辞儀させ裏側から反対側の表面に舌をそよがせようとしたが、充血し屹立しきったおれの分身があまりに硬く反り返っているためあきらめた。
あきらめて、しかし今度は先っちょのぬらぬらになった尿道口をくすぐるようにしてこまやかに舌先をそよがせる。
「ああ、たまらないよ、母さん」
抗しがたい愉悦がこんこんと湧きたち一瞬でも気をぬくと、最初のあのときのように不意に暴発してしまう不安すら覚えた。
「母さんもよ、母さんもたまらないわ」
「濡れているのかい、母さん」
「羞ずかしいくらいにぐちゃぐちゃよ」
「あとで、ね、今度はあとでおれが母さんにしてあげる、母さんがこの椅子に腰かけて、ぼくが母さんの足元で……」
「嬉しい、考えただけで母さん、気が遠くなりそうなくらい興奮してしまうわ」
「させてくれるね、母さんのおべちょこをうんと舐め回して……してほしい?」
「うっむ、むう、ぷはっ、いやだよお、本当はそうしてもらいたいの、してもらいたくてしてもらいたくて、母さん」
「なんだい、いってよ母さん、正直に」
「だって羞ずかしいもん……いやっ」
腰を少し浮かし、さっきから亀頭部分をしゃぶったり、口をはずして肉杭に舌とくちびるをそよがせている母の美しい黒髪をなぜてやると、母はちょっとイタズラ少女みたいな上目使いでおれを見てすぐにまた顔を見られまいとでもするようにカサの部分をしゃぶってみせる。
「誰にもいわないから教えてよ」
「約束できる?」
「うん、約束するから……あうーん」
「おまえと会える前の日はダメなんだよ」
「なにが、なにがダメなの」
「おまえのこの大好きなものをしゃぶったり、おまえにもしてもらったり、いっぱい入れてもらったり……そういうことを前の日は考えてしまうのよ、すごく」
「おれだって同じさ」
「それで浅ましいくらい濡れてしまって何年か前までは、おまえと会う前日に限って下ばきを二枚重ねで穿いていたの」
「母さん、嬉しいよ」
「でも、いまなんか……」
「いまなんか?」
「それでもびちゃびちゃに濡れちゃうものだから、若い娘みたいにタンポン使っているんだよ」
「か、母さん、交代しようよ」
「いやだよ、母さん、このまま、もっとしゃぶりたい、しゃぶらせて、むうむう」
「ううっ……母さん、いい……おれも、昔はよく我慢できなくて、会社のトイレや家でも麻夕美に内緒で手コキしてた」
「ぷはっ、麻夕美さんとは、むうむう」
「うっ、キツい、母さん」
「ごめんごめん、彼女にバレないの」
「うん、そこはバレないように上手にね」
「だけど前の晩、麻夕美と……」
そのときだけ母の表情がこわばったのが分かった。おれは急いで、
「母さんと逢う前の晩は、母さんに申訳ない気がして麻夕美とは絶対しないよ」
「そう……」
いって母は、その会話がなかったかのように今度は情熱的にしゃぶり始めた。
母と二人きりの日は、ほぼ明け方近くまで愛し合う。
そのこともあって妻とは、実際に前の晩は求められても応じていない。それは母のために精とエネルギーを確保しておきたいという意味もあった。
妻はそのことに格別の疑念も抱いてはいないが、考えてみると、母と逢う前日に妻としていないということは、間違いなく他の日は若い妻と、あるいは激しく愛し合っているだろうことをなまなましく母に想像させただろう。
遠くなつかしいあの19歳の受験生だったころの午後3時のおやつの時間。
運動不足で散歩もほとんどしなかったおれは母がおやつを持ってきてくれたとき、片方の足が攣って、顔を歪めながら机に向かったままマッサージしていた。
「あらら、それは気の毒だわ」
気がつくと母はおれの机の下にもぐり込み、自分のことのように懸命におれの攣ったほうの片足をもんでくれたのだが痛みが遠ざかるや、母のちょうど目の前にある部分をズボンを突き破らんばかりにパンパンにふくらませていた。
「…………」
あのとき、二人とも交わす言葉を見つけられなくて、でも二人とも逃れられず気がついたときには母はおれの青い分身を口いっぱいに頬ばりしゃぶり吸いたてて、たまらず母の口膣内で暴発してしまったのを母は喉を鳴らして嚥下した。
あの身を焼け焦がすような興奮と秘悦はおれと母を夢中にさせた。
あの日以来、父と世間の目を盗んで母とおれは大学合格の日まで「三時のおやつ」をむさぼり、父と別れてからは時間のある限り愛欲の海に溺れ続けた。その関係は、おれが結婚して変則的な形にはなったがいまに至るも続いている。
それはもう愛欲という陳腐な言葉では足らないもっと深い肉親の情を包み込む。「ああ、ダメだ、母さん、限界だ」
「嬉しい嬉しい、一杯一杯ちょうだい」
母の口膣内いっぱいにあふれるくらい大量のものを放ちながら、おれの内部で早くも新たな情欲がとぐろを巻きはじめていた……。