おれの変態性戯に溺れる美人教授との宴(その1)
- 2023/3/22
- 告白
満員電車でたったままノーパンで痺悦し
おれの手を掴んだ蕗子は、女子短期大学の教授とも思えぬ大胆さでおれの指を濡れそぼった肉路に導き、指ピストンを開始すると強烈に締めつけて…。
(告白者)
茂手木宗之吉(仮名・35歳)
美人教授の本性
華道か茶道の、指導者みたいな雰囲気をたたえた色っぽい中年女だった。
おれよりも、ちょっと年上。四十歳前後であろうか。
ピラミッド型の搾取の体系、拝金主義、あるいは実力本位ではなくカネや血筋が優先される家元制度が、おれは、大嫌いである。
しかも、エエカッコしながら、脱税では最も有名なあのギョーカイは、消えて無くなるべきだと感じている。
だが彼女、蕗子(のちに名前を知った)は、おれにとって別格だった。
お茶とお花の家元であろうと、それ以上の魅力をおれは感じてしまったのである。
もっとも、やがて彼女が、美大の教授——本当の芸術家だと、のちに知ることになるのであるが……。
人生は、ひょんなきっかけで一変することがある。
もちろん、油断して、地獄への道を真っ逆さまという不幸なケースは少なくない。
おれの場合が、その反対の幸運な例といえるかどうか。断言はできないが、ただ一つだけ確実にいえることは、人生、なにが起こるか分からないよ、ということである。
この拙文が採用されるかどうか、まだ分からないけど、採用されると前提して、付言しておく。
人生がイヤになって、見切りをつけようと考えている者がこの駄文をもし目にとめてくれたら、
「死ぬのは、いつだって出来る。死ぬ気があれば、相当のことが出来る。だって、死んだら、借金取りは追いかけてこれないし、難病の苦しみからも、いっさい解放される」
ということを心にとめ置いてもらいたい。
そして、死ぬ覚悟があれば、もう恐いものはないということだ。
せめて、この世で最も許せない相手を、道づれにしてやるか、社会的肉体的精神的に、最高最大のダメージを与えてやってから死んでもよいではないか、と訴えたい。
信頼し、最も心を許していた自分を、ズタズタにしてくれたヤツ。
自分が、死ぬか生きるかの悪戦苦闘しているときに、ノオノオと生きて、だまくらかし、おまけに最後はスタコラサッサと逃げて行ったヤツ。
どうせ死ぬ覚悟があるなら、こんなヤカラに、この世の地獄を見せてあげてもよいではないか。
そう考えたら、なにも自分ひとりが傷ついて生を閉じる必要などなく、さんざっぱら気分を苦しめてくれた相手に、二倍も三倍も〝お礼返し〟をしてから、ゆっくりと〝向こうの世界〟へ行けばいい。
しかし、このごろは、〝巨悪〟にではなく、弱い者や無関係な第三者に怒りの刃を向ける暴走の徒が多いのは、悲しく、そして情けないとおれは感じている。
〈敵は、本能寺にあり〉
そう、本来の目的を見失ってはならないのである。
話を、元に戻そう。
人生は、そう、何が起こるか分からない。
「天災は、忘れたころにやってくる」のことわざではないが、当人は忘れていたって、深い恨みを持つ者は、十年でも二十年後でも、恨みや怒りを引きずっている。
いや、受けた傷の深さによっては、生涯にわたって忘れやしない。
仮にその者が忘れても、その者を尊敬する者や信者や共鳴者や、仲間や子分らが、いつか代わりに自分がカタキを討ってやると、虎視眈眈(こしたんたん)と狙っていることもある。
「月夜」の晩ばかりではない。
もう終わったと油断していたときに、大ナタが眉間に振り降ろされないとも限らない。
ヒト一倍の執念や情念は、なまなかに軽いものではないことを、おれも三十五年生きてきて感じるようになった。
話が少し脱線して、暗く重い話に傾いてしまったが、そのような現実がある一方で、人生の面白さをおれは伝えないではいられないのである。
それは、他人から聞いた話でも小説で読んだ話でもなく、おれ自身の体験だからだ。
いま、死のうとしている貴君、貴女よ、それはおれのこの笑える話を読んでからにしてもらいたい。
もしかして、キミ自身が、おれになるかもしれないのだから……。
いささか前置きが長くなってしまったが、おれは、自分でもビョーキだと思っている覗きに取り憑かれた男である。
思うに、おれがノゾキにのめりこんでゆくのは、女性に対してと、それ以上に自分自身に強いコンプレックスを抱いていたことが大きい原因だろう。
成績は、小中高校時代を通じて、中か、それより少し上ではあったけれど、身長はずうっと、前から五番目以内、おまけにアガリ性とくれば、異性から充分に興味対象〝外〟として無視される条件は整っていた。
二十代後半、親のドーカツもあって、結婚紹介所とか、お見合いパーティーにかなり参加するも、学歴もなければ財力もない、おまけに男のセックスアピールの〝セ〟の字もないおれを、異性たちは見向きもしなかった。
三十代の〝大台〟を迎えたとき、
「アセったって仕方ないや、男と女は、縁のもの。なるようにしかならない、別段、独身だっていいじゃないの」
ふっと、強くそう思ったのである。
親は相変わらず、早く結婚しろ……してくれとうるさかったが、そのトーンも次第に弱くなり、三十代も半ばこのトシになると、こればっかりは相手のある縁のもの、段々とあきらめの境地に傾いていった。
おれが、それはビョーキといってもよい〝ノゾキ〟の魅力に取り憑かれたのは、そんなときである。
ノゾキのルール
最初のきっかけは、公園ノゾキだった。
新宿の某公園内で、あれは週末の夕べ、西の夜が夕焼け色に染まるころ、おれは園内のベンチにボーッと座っていた。
ひとりベンチから立ち上がろうとしたとき、目の前を、明らかに上司とおぼしき中年男と、顔はよく確認できなかったが、ヒールを履いて男と同じくらい背が高い、なかなかのプロポーションをした若い女のアベックが目の前を通り過ぎた。
(おや、すごいスタイルの女だな)
なにげなく二人を、見るともなく見ていると、ちょっと行った先で、二人は周囲をキョロキョロし、次いでいきなり茂みの中に姿を消した。
「……!?」
おれはほとんど無意識に立ち上がり、フラフラと二人が消えた茂みのほうへ入って行ったのである。
と、二人が、女が木に背中を預けて立ったまま、抱擁し、口づけしているところを目撃してしまった。
しかも、すぐ近く、数メートル先の光景である。
おれは、そのとき、条件反射的に身をかがめていた。
気がつくと、二人のすぐ近くまで(中年男の背後まで)、近づいていたのである。
おれにとっては驚異的なことだが、すぐ数メートル近くの遊歩道を、一般の人間が行ったりきたりしている状態だった。
それゆえの〝死角〟というものがあるんだということも、そのとき感じたことである。
ともあれ、二人はすっかりデキあがっていて、女は息を乱し、男は女の尻や、さらにはスカートの中へ手を入れ、陰部のあたりをまさぐっている。
あのとき、ドサクサにまぎれて、おれは女の太ももあたりをさわろうと、思わず手をのばしかけたときだった。
〝闇〟の中から現われた、誰のものとも知らない手が、おれの手首を掴んだ。
「……!?」
叫びそうになって身を固くすると、そのままおれは、手首を掴まれたまま、遊歩道まで引っぱり出されたのである。
「す、すいません」
明るい場所に出て、思わず詫びて見上げると、相手はふた回り大柄の巨漢男である。
あとで教えてもらったのは、ノゾキの世界では大変に有名な、為五郎(タメゴロー)親分の子分というべきひとだった。
彼は、タメゴロー親分の覗き哲学に心酔していて、
「あのなあ、おめえは新人だから気がつかなかっただろうが、あのアベックを、おめえの他に、四人も五人もノゾいていたんだよ」
「え。そんな!」
ぶったまげた。全然、おれは気がつかなかったからである。
「そりゃそうよ。みんな、ベテランだから、ノゾいている〝気配〟を消す、消さないと、アベックは行為を中断して、ヨソへ行ってしまうからな」
「そ、それはそうでしょうね」
「だから、な、ありがたくノゾかせてもらいという感謝の心構えが必要なんだ。ノゾキ道と〝痴漢〟は違うんだ。金輪際、ここでノゾキやるときは、〝手〟をだしちゃあ、いけねえよ」
「は、はい、分かりました」
分からなかったが、一応そう答えて、その場はカンベンしてもらった。
彼は、その公園をナワバリとするノゾキ仲間の、あろうことか、痴漢退治のボディガードだったのである。
感謝の念を持ってアベックの痴態をノゾかせてもらう(アベックの多くは、興奮していてノゾかれていることに気づいていない)姿勢のない、つまり痴漢やワイセツ漢は、彼のような屈強なボディガードによって撃退されるという。
なるほど、ヘンなことをされたら、アベックはその公園を敬遠して、二度とそこには近づかないだろう。
そうなったら、ノゾキ屋たちの楽しみはなくなってしまう。
そうさせないために、つまりスケベなアベックが安心して、心ゆくまでエロな行為に励めるよう、ノゾキ仲間は結束して、ノゾキの〝正しい〟美学を持たない異分子をナワバリから排除するのである。
ボディガード氏は、みずからもノゾキを楽しむために、その腕ずくの役目を先頭に立って引き受けていたといえよう。
昔に比べて、犯罪防止の観点から、どんどん都会の公園から〝闇〟が消えている。
しかし、アベックの中には、経済的あるいは精神的余裕を失って、それとも非日常的な刺激を求めて、まだまだ屋外=公園で性行為に走る者も少なくない。
それは、キスやペッティングで終えるカップルもいれば、それでは済まずにホンバンにおよぶアベックもいる。
ノゾキ屋さんたちにとっては、都会の公園は、まだまだ楽しみ多き世界なのである。
おれは、そのボディガード氏の仲間に入り、数カ月間、公園ノゾキに熱中したが、やがてその世界を卒業し、これも偶然のきっかけなのだが、アパートやマンションを中心にした、郊外型住宅の独身女性をターゲットにするようになったのである……。
女性の部屋をノゾキ
冒頭の四十女の話に戻ると、彼女は、あるマンションの三階に住んでいた。
おれの住む郊外の中古アパートへ行く途中に建っている古いマンションである。
両親にほとんど愛想をつかされ、その数年前からおれは実家を出て、独りアパート住まいをしていた。
何度もそのマンションの前を通っていたが、最終電車で帰ったその夜、そのマンションの前の電柱の横で立ち小便をしていて気がついた。
すなわち、電柱をよじ登ってゆけば、三階の彼女の家のベランダの目の前に到達することができることを、である。
のみならず、酔いもさめて、よく見れば、ちょっと冒険すれば、そのベランダにも移れるかもしれないことを……。
実は、毎晩そのマンションの前を通っていて、ふっと見上げたとき、やけに色っぽい下着がベランダに干してあるのが、あるとき目にとまってドキリとしたことがあった。
玄関は、セキュリティーがしっかりしていて、ぐるりの塀も高く、中に入ることはかなわないとあきらめていた。
が、たまたま立ち小便をしたことがきっかけで、ハプニングが起こったのである。
気がつくと、おれは、その電柱をよじ登っていたのである。
二階の高さを過ぎたあたりで、地上に酔っぱらいの中年男が行き過ぎたが、鼻唄まじりの彼は、こっちを見上げることもなく、おれの存在に気がつかずに姿を消した。
三階の、彼女の家のベランダの高さまでくると、大股びらきになれば、なんとかベランダの欄干(手すり)に片手片足がとどくことが分かった。
のみならず、驚いたのは、八月も下旬にかかっていたのだが、クーラーをいれるほどではないにしても残暑が残る時期で、ベランダに続く引き戸が開いていて、天井の豆電球が室内を照らしていた。
ベランダに接する部屋は二つあり、一つは寝室で、その寝室の中央に大きなダブルベッドが置かれ、ネグリジェ姿の女性の寝乱れた姿がいきなりおれの視界に飛びこんでいたのである。
いま思い出しても、片脚を立て、ネグリジェの裾が腰のほうまでめくれ、なま白い片ほうの太ももとパンティーが見えているのは鮮烈な眺めだった。
頭はベランダ寄り、外気を部屋に入れようとしていたのだろう、白いレースのカーテンが風にゆらゆら揺れ、その向こうに半裸姿の女のなまめかしい姿が浮かび上がっている光景は実に煽情的なのであった。
時刻は午前一時を回ったころで、いわば、ちょうどガクンと熟睡に落ちたころであったに違いない。
考えてみれば、寝室の戸を開けて寝るなんて、無防備この上ない。
しかし、三階ということで、彼女は安心していたに違いない。
いや、三階どころか、塀や木によじ登れば室内が簡単にノゾけるばかりか、ときには容易に侵入可能な、アパートやマンションなど共同住宅の、二階の住人(独身女性、夫婦など)さえ、窓や戸を開けっぱなしで寝ていることが多い。
だから、仮におんながすっぱだかで街中を歩いていても、その女を強姦したら、99・9%は強姦した男が悪いのであり、彼女は公然ワイセツ罪で問われることはあっても、犯されるスジ合いはない。
が、夜中に寝室の窓や戸を開けて寝ていたら、犯罪者を容易に室内に招じ入れられる情況であることは否定できないだろう。
それはともかく、おれは彼女の秘態に吸い寄せられるように、忍びやかにベランダに移っていた。
手すりをまたいでベランダにうずくまると、やわらかい風がカーテンを揺らしていたが、引き戸の外にいったんうずくまり、次いでそっと首を透けガラスまでのばすと、可愛らしいイビキが中からこぼれてきた。
深い眠りに落ちているらしいと感じたとき、普段は気の小さいおれが大胆な行動に踏み出していたのである。
四十歳前後の、いい女だった。
いま名前が出てこないが、テレビでよく見る、ナントカという人気の女優に似た、かなり色っぽい顔だちである。
のちに彼女が、聞いたことがある某女子短期大学の准教授で、インテリだと知った。
なぜか、独身だった。
気がついたときには、(無意識におれは、イザ見つかったときのことを考えたのだろう)スニーカーを履いたまま、そっとレースの白いカーテンをくぐり、大胆にも室内へ侵入していたのである。
ネグリジェの下に、彼女は品のいい水色の薄いショーツをつけていた。
天井の豆電球は10ワットと思しき明るさ。品よく整えられた彼女の眉毛や、形のいいアゴや耳たぶなどもよく見え、だからショーツの内側のヘアーのこんもりした黒い茂みもリアルに見えた。とろりと白いつややかな太もも、キュッと引き締まった両の足首。
細くて形のいい、長い足指に視線を這わすと、しゃぶりつきたいフェチックな欲望が込み上げた。
シャワーを浴びるかしてベッドに横になったのであろう、全身からシャボンの清潔な香りがし、半身を起こして彼女の股間に鼻を寄せて匂いを嗅ぐと、微かにシャボンと汗と体臭のまざったようなセクシャルな香りがぷんとおれの鼻腔をくすぐった。
ムラムラと、脳が焼けるような欲情が込み上げる。
理性が打ち砕かれ、そのまま襲いかかりたい欲望に支配されそうになったが、あの屈強なボディガードの顔がそのとき脳裡をかすめ、おれはかろうじて立ち止まった。
「うーん」
と彼女が無防備な声をこぼし、寝返りを打ったとき、おれはこわくなってあわてて部屋を出た。
ベランダから外をうかがうと人影はない。
おれは電柱に移り、そのマンションを急いで後にしたが、自宅アパートに着くまで辛抱できず、青空駐車場の暗がりで、十代のころの覚えたてのときにも似た強烈なマスターベーションに我を忘れたのである。