ぬかるみきった花唇に
伯母と再会するのは小学校四〜五年のとき以来だから10年ぶりくらいだった。
大学受験で上京し、合格して下宿生活を始めてからも伯母の家に足を向けなかったのは、あの伯父がいるからだった。
町役場のしがない地方公務員をしている父は、いつも背中を丸めて歩いているようなうだつの上がらない男だったが、おれたち子供のことを大切にしてくれたし、男まさりの母のことも愛していた。
世の中の多くの部分は、父のような地味だが地に足が着いた者たちによって支えられていると感じていたおれは、伯父のようなエリートを顔に貼りつけているような連中が好きになれなかった。
だから母にいくら伯母のところへ挨拶に行けといわれてもその気にならなかったし、大学出たらまた郷里の北海道へ帰って就職する気でいたが、在学中も伯母の家へお邪魔する気はなかった。
いや、母の姉である伯母には会いたい気はあったが、あの男に顔を合わせるのかと思うと考えただけで苦痛だったから結局、それまで縁がなかった。
ところが、大学四年になると就職活動で忙しくなると思い、大学三年のいま、暮れと正月は帰省せずに東京でのんびり過ごすことにしたのだったが伯母から、母が番号を教えたのだろう、おれのケータイに電話がかかってきた。
「久しぶり、俊介ちゃん」
「あの、どーも、ごぶさたしています」
「水くさいわ、ね、うちにいらっしゃい。輝子から連絡があって、おモチくらいは食べさせてあげてって。ね、おモチどころかお酒も飲ませてあげる」
「お袋、余計なこといいやがって……」
「ふふ、主人が苦手なんでしょ」
「え、あ、いや……実はそうです」
「分かっているわ。私も苦手だもの」
暗い声ではなく逆に弾んで聴こえた。
「そんなあ、妻である伯母さんまで?」
「ええ、ええ、大の苦手……うっふふ」
「参ったなあ、冗談にしても」
「あら、本気よ。でも、それはいいの。それとも恋人の彼女と二人正月?」
「いやいや、そんなのいませんよ」
「あらら、ハンサム君に彼女のひとりやふたりいないなんて信じられなくてよ」
「伯母さん」
「なに、急に?」
「酔ってます?」
「あっは、シラフよ。ね、酔いたいわ。〝邪魔者〟はいまヨーロッパに出張中、いまごろブロンドの彼女と……あらら」
〝邪魔者〟がいないと聞いて、おれは急に心が動いた。だからといって、伯母に妙な野心を抱いたわけじゃない。むしろ、この歳になって笑われるかもしれないが、金持ちの伯母からお年玉をもらえるかもしれないというガキっぽい計算が先に立っていたのである……。
伯母の家、つまり高級マンションは、都心の一等地にあった。
十年近く前まで田園調布という高級住宅街に邸を構えていたが、二人だけでは広すぎるし家の使い勝手が悪いということもあったのだろうが、いつまでも見栄を張っているより年齢とともに仕事場の会社に近いほうが便利でいいということを選択したのだろう、田園調布の邸を売り、タクシーでも簡単に会社へ行くことができる現在の家に移ったのだった。
正月の二日の夕刻にお邪魔すると、嬉しそうに伯母は豪華な正月料理を用意して待っていてくれた。
「嬉しいわ、俊介ちゃんが来てくれて」
「ぼくのほうこそ、久しぶりです……」
正月の東京は、帰省する人間が多いからだろう、いつもより空気も澄み、そのせいか夜景も美しかった。
いや、なによりも期待以上に伯母が美しかったのでおれの心は弾んでいた。
「伯父さんはいつお帰りですか」
「ずっと帰らなくてもいいのに……」
「やだなあ、伯母さんたら……」
「冗談。給料袋が帰らないと困るわ」
「はっは、キツイすね」
「彼のことは忘れて、ね、飲みましょ」
伯母は、シャンパンから始まり、よく飲んだ。もともと飲めるクチだが、ゆっくり飲む機会がなかったという。
よく飲み、よく食べ、よく喋った。
それはおれも同じで、母には内緒だということで入学祝を兼ねてお年玉を10万円もらったことで現金なおれのハートに火がついたのだった。
「ね、泊まっていってもいいんでしょ。泊まっていって」
伯母の目に急に粘りつくような光が宿った。広びろした居間のテーブルをはさんで視線をからませたとき、21歳のおれにはセーブできない情念の嵐が胸の中でさかまいた。
急に部屋の空気が薄くなった気がして思わず深呼吸してから、
「伯父さんに殺されませんかね」
予期せぬ冗談がおれの口から出た。
「そんな度胸ないわ。顔はこわもてだけど、意外と小心なの。ううん、それより二人が黙っていたら彼には分かんない」
「それはそうですけど……」
「それとも彼女のところへ行く気かな。だったら仕方ない、タクシー代を……」
急にすねた顔をして伯母は、趣味のいいバッグからサイフを出そうとした。
ふた回りも年上の、それもスターまがいの美貌の女のすねた顔も魅力的だった。
「そ、そんな、特定の彼女なんか、ぼくにはいませんよ」
「不特定の彼女なら多いのね」
「参ったなあ。単なるお茶飲み友だち。キャンパスメイト……泊まります」
「最初からそういってほしかったわ」
いっておれを甘くにらんだ伯母の横顔を正面から見たとき、肛門のあたりから湧きたった熱い感覚がたちまち全身に駆け巡り、ソファの上で脚を組まなければいられないほど股間のものがキリキリといきりたつのを避けられなかった……。
子供を産んだことがないせいなのか、そのあたりはおれには分からないが伯母の形のいい双つの乳房のいただきで少女のそれにも似た桜色の乳首がおれの愛撫によって硬くしこり勃っていた。
そこに口をつけ、片方を指の股にはさんで甘くいらいながら優しく吸うと、
「ああっ、ああ……いい、感じるわ」
伯母はおれの頭を抱きかかえるようにして細い肩をくねらせながら、長く尾を引く喘ぎをこぼした。
広い寝室に、普通ならば一式で十分なダブルベッドがふたつ、一メートルほどの距離を置いて並んでいた。
その光景自体が夫婦の関係を物語っているように映った。
そのことを踏みこんで聞く勇気も権利もなかったが、
「ね、そんな人のベッドじゃなく、私のベッドで一緒に寝ましょ」
伯母のあとにバスルームから出てくると、寝室の照明を落として待っていた伯母はすこしカスレ声でおれを自分のベッドに招き、そのときにはおれは、伯母がもしかしたら男をからだの中に迎え入れるのは久しぶりかもしれないと予感し、その予感はすぐに的中した。
お互い全裸になり、なんの情感もなくキリキリと怒張してしまったおれの分身を伯母が目を細めて見つめ、
「ああ、なんて若々しいの、すてきよ」
辛抱たまらないといった感じでそれをそっと、しかしすぐにぎゅうぎゅう五指を巻きつけ、強く握ったりゆるめたり、さらには上下にしごきたて、しごきたてながらハッ、ハッと息を乱れさせてきたとき、あるいは伯母は、おれのケータイに電話する以前からおれとのこうなる仲を期待していたのだと思った。
「伯母……ごめん、怜子、すごくきれいなおチチだね。やわらかくて弾力がある」
くちびると舌と指を交互に駆使して愛撫しつづけているあいだ、伯母は一度としておれの男根に巻きつけた片手の五指を離さなかった。
「私にも、ね、ああ、私にもキスさせて……お願い、俊介を口でも……むうむっ」
くちびると舌を両の乳ぶさからくびれた白い腰、さらに大腿部へと移動させてゆくと、伯母は下半身をワナワナ震わせおれのくちびるが猫の腹毛のように柔らかいヘアーの茂みに到達すると、
「ひッ……弱いッ」
と小さく叫び、大きなダブルベッドの上でみずから身を半転させるや、おれの股間に顔をうずめていた。
「むう……あむむう、むっふ、むっぐ」
ちょっとむせるようなくぐもった呻きをこぼしながら伯母は、先走り液でぬらぬらになっている王冠部周辺と秘口に情のこもった舌戯をほどこし、と思ったら途中から辛抱たまらなくなったとでもいう感じで先端部からのみこんでいた。
一気にのみこむや、上下のくちびるをすぼめ、すぼめたまま陽根をしごきたて同時に舌をあちこち這いずらかせる。
「いい、ああ、怜子、いいよいいよ」
多くは同年代か年下の女の子たちは、滅多にフェラチオなどしてくれない。
おれはすなおに快感を口にし、香水と体液のほどよくミックスされた芳香をこぼす伯母のたまげるほどぬかるみきった花唇に、蜜を舌でていねいにすくい取るふうにして舌をそよがせる。
とたん、伯母の火照った身体に火がついたように伯母の口からただならぬ嬌声が噴きこぼれた。おれの分身から口をはずして伯母がひきつれた声で、
「お願い、俊介、きて、早くきて」
挿入をせがみ、おれに向けて両腕を広げたとき、重なってゆきながらおれは、伯母との関係が長く尾を引く予感と甘い不安にかすかにおののいていた。